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J.R.R.トールキンの『指輪物語』におけるホモソーシャリティとslash文化(序)

※はじめに
この文章は管理人が大学在学当時、卒業論文として提出したものです。せいぜい4年間の勉強の結果まとめたものゆえ、知識や考察、文章力等の未熟さに加え、肝心の結論がまとまりきらない拙さもあると思いますが、おそらく今後も『指輪物語』という作品について考え続けることは変わりなく、その一つの出発点として、このブログに掲載する次第です。管理人自身も実際腐女子なので、平等性に欠ける部分も多分あります(;)ですが、自分自身が抱く「萌え」という感情、あるいは普段なら根拠や他の先生方の論などひかずに、ただ「萌え語る」ところのものを、どうにか説明しようと必至になって書いたものなので、あらかじめご了承頂ければ幸いです^^;

※頻出用語 ~「ホモソーシャル」って何?~
・ホモソーシャル/ホモソーシャリティ(homosocial/homosociality)
イヴ・セジヴィックが唱えた概念。異性愛の男性同士による強い友情や連帯関係を指す。きわめて強固で親密な関係性でありながら、男性同性愛(ホモセクシャル)とは異なり、同性愛を嫌ったり(ホモフォビア)、女性蔑視(ミソジニー)などの特徴を持ったりする。 具体的には軍隊や体育会系のクラブなどに見られる関係性。

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目次

序論
第1章 『指輪物語』におけるホモソーシャリティ
1.男同士の絆
2.女性の疎外と強調
第2章 Slash文化について
1.Slash文化の起源と発展
2.Slash的思考回路
第3章  『指輪物語』とSlash
1. 映画における表象
2.ファンタジーとSlash
結論    

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序論

 J.R.R.トールキンの『指輪物語』(原題:The Lord of the Rings)は「旅の仲間(The Fellowship of the Ring)」「二つの塔(The Two Towers)」「王の帰還(The Return of the King)」からなる3部作で、1954年から1955年にかけて出版されて以来、多くの言語への翻訳や増刷を経て、英米を中心に商業的な成功を収めた作品であり、いわゆる「ハイ・ファンタジー」作品の金字塔として今なお絶大な人気を得る文学のひとつである。物語の舞台は有史以前の地球であり、トールキンはそこに独自の神話体系・歴史・世界観を創造し、中心となる背景世界に≪中つ国(Middle-Earth)≫という名前を与えた。『指輪物語』は『シルマリルの物語』(原題:The Silmarillion)[i]『ホビットの冒険』(原題:The Hobbit)[ii]の2作に続くトールキンの神話体系での最終章にあたり、時は作品内での歴史上の≪第3紀≫に設定されている。この時代の中つ国ではエルフやドワーフ、人間などの種族が平和に暮らしているが、冥王サウロンは≪力の指輪≫と呼ばれる一つの魔法の指輪(One Ring)を創り出し世界を支配しようとたくらんでいた。善の軍団との戦いによりサウロンの野望は、一時は挫かれるが、指輪はその後行方不明となり、巡り巡ってホビット(小人)族の平凡な青年・フロドがそれを手にする。再び世界を闇に陥れるために何としてでも指輪を手にしたいサウロンに対抗すべく、一つの指輪を滅びの火口に葬るためフロドは仲間と共に旅立つ。途中、仲間との離散や疑念、指輪の魔力そのものに負けそうになりながらも、最後には指輪を葬り、世界は救われるというのが大まかなストーリーである。

 このようにトールキンが描いた架空の世界や種族の物語は、近代における「ハイ・ファンタジー」という文学ジャンルにおける一つの定型を提示した[iii]のみならず、その後のファンタジー作品やSF作品、映像・音楽、ロールプレイングゲームなどの大衆文化にも大きな影響を与えたとされる。とりわけ2001年から2003年にかけてピーター・ジャクソンを監督として実写映画化された三部作『ロード・オブ・ザ・リング』の成功は記憶に新しいが、このようなメディアミックスにより、より多くのファンを獲得することとなった『指輪物語』は、その知名度の上昇に伴い賞賛や批判のみならず多種多様な“反応”を巻き起こすこととなった。
 
 それらの反応の一つとして『指輪物語』の原作・映画の両方をホモソーシャルないしはホモエロティシズムの観点から考察・批評するという流れが見られるのは、初版刊行以降40年余りにわたる『指輪物語』批評史の中でも、近年――とりわけ映画版公開以降に出てきた傾向として興味深い。これまでにも『指輪物語』研究の分野ではジェンダー論やフェミニズム論といった形で作品における女性性の希薄さや作品そのもののセクシュアリティが指摘される他、トールキンのセクシストとしての側面への糾弾がアメリカの女性作家スージー・マッキー・チャーナスらによって成されてきており(小谷,「リングワールドふたたび」,p94)、ホモソーシャル性への考察も基本的にはこのようなジェンダーやセクシュアリティ研究の延長上にあると考えられる。D.M. Craigは’ ”Queer lodgings”: gender and sexuality in The Lord of the Rings ‘ (2001)において、映画公開に先駆けて『指輪物語』に内包されるホモセクシャルな要素について論じており、R. Kaufmanは”The homoerotic aspects of this motif of male partnership are strikingly evident in Tolkien’s novel”(Kaufman,p1)と断言する。他にも A. Smolの”Oh…Oh…Frodo!” Readings of Male Intimacy in The Lord of The Rings’ (2004) 、E. Saxeyの’Homoeroticism’ (2006) など原作のみならず映画版をも考察の対象とする論文や批評は既にいくつか発表されている。

 一方、研究とは関係なく単なる娯楽として、『指輪物語』のホモセクシャル性を笑うという反応も存在する。その顕著な例は映画版『ロード・オブ・ザ・リング』の特典映像に収められている。そこでは主人公フロドとサムをゲイのカップルに見立てたパロディ映画の企画を持ち込まれたジャクソン監督が唖然とする、といったやり取りがコメディ仕立てに行われている。(王の帰還,Disc2) こうしたものが「笑い」として成立する背景には、強い異性愛主義と、ホモセクシャルに対する偏見ないしは嫌悪が、意識的・無意識的を問わず存在するように思われる。それと同時に、男同士の友情をホモセクシャルとして取り違えてほしくないという製作者側の意図も伺える。

 しかしながら、そのような意図とは裏腹に、男同士の友情の物語をホモセクシャルな恋愛の物語として積極的に読み替えようとする動きがあるのもまた事実であり、とりわけ興味深いのがSlash Fiction(以下Slash)と呼ばれる、ファンによる二次創作(Fan Fiction)の文化である。Slashとは、既存のキャラクター同士のホモセクシャルな恋愛関係をファンが勝手に想像して作った物語を指し、登場するキャラクターのカップリング[iv]を『○○/△△』と言うようにスラッシュ記号を挟んで表記することからこう呼ばれている。日本で言う「やおい・BL(ボーイズラブ)」といった文化に相当するが、英語圏でも主に女性ファンの間でインターネットを作品発表や交流の中心として広がりを見せている。例えば、様々な既存作品の二次創作を集めたウェブサイト・Fan Fiction Net[v]では映画・TVドラマ・アニメ・漫画など数千を超えるジャンル[vi]ごとに、それぞれの二次創作を自由に投稿・閲覧することができ、ファン同士のコミュニティなども形成されている。『指輪物語』もその例外ではなく、The Lord of The Ringsカテゴリーへの投稿作品数は45,000件を超えており、BookカテゴリーではHarry Potterの563,402件、Twilightの192,102件についで3位の人気である。[vii]もっともこれらすべての投稿作が同性愛要素を含むSlashという訳ではなく、男女のキャラクター同士の恋愛に主眼を置いたものや、単なる外伝的エピソードとしての二次創作など内容は様々だが、全体の母数の大きさから見てもThe Lord of The Rings Slashが一定の人気を得ていることは確かだろう。

 以上のような現状を踏まえて、本論文では、『指輪物語』および映画版『ロード・オブ・ザ・リング』におけるホモソーシャリティについて、登場人物の表象などから考察すると同時に、なぜこれほどまでにSlash文化からの人気を獲得しているのかという問いに対して、読み手側の社会的・文化的・心理的背景などを合わせて考察する。さらにSlash文化という存在は、今後『指輪物語』というテクストの「読まれ方」にどのような視点を示し得るのかについて言及する。



注)
 [i] トールキンの神話体系の中で最も時系列が古い物語であり、世界がまだ若い頃のエルフや人間たちを中心に、シルマリルという3つの宝玉をめぐる争いを描く。
[ii] フロドの養父であるビルボ・バギンズを主人公とし、かれが13人のドワーフと共に竜退治や財宝を探す冒険に出る物語。
[iii] リン・カーターは「ファンタジー史において、これほど詳細で説得力があり、真に迫った空想世界を創り上げた作家はいない。そしてこれほど精彩に富んだ物語を創った作家もいないに等しい」(カーター、p149)として、ファンタジーという文学ジャンルにおける『指輪物語』の功績について一定の評価を与えている。
[iv] 二次創作においてキャラクター同士の恋人関係を指す言葉。男性同性愛・女性同性愛・異性愛関係を問わず用いられる。例えば「A×B」というカップリングならば、Aが男役、Bが女役であることを表すが、Slashの場合は必ずしもこの通りでは無く「A/B」「B/A」どちらも同じ内容を指す場合もある。
[v] Fan Fiction Net < http://www.fanfiction.net/ >
[vi] 二次創作の原作となる作品を指して、こう呼ばれることが多い。
[vii] ちなみにMovieカテゴリーではStar Warsの27,355件、TVshows カテゴリーではSuper Natural 55,648件、Anime/MangaカテゴリーではNarutoの290,648件がそれぞれ1位。(2011年12月1日参照)

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