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「〈物語の世界〉古英語叙事詩とホビットの冒険」受講レポート(後編)

中編のつづき



◆具体的な共通点 ~ベオウルフの竜とスマウグ~

 

さて、古英語の文献にあたりそれらの中からいわゆる「中つ国」の生き物たちを創造していったトールキン。

では先述の『ベオウルフ』と『ホビット』の間にはどんな共通点があるのか。

講義は具体的な文脈を追っていきます。

 

 

まず『ベオウルフ』の竜の描写。(古英語版と現代英語は割愛)

 

 軈(やが)て高き高地にありて宝庫(たからぐら)、

 堆き石塚を守りたる

 一頭の竜暗き夜な夜な威を振り初めぬ。

 人に知られざる路、その(石塚の)下に横たはりてありき。

 異教人の宝に近く辿り着きし或る人のその中へ行き、

 手、珠玉もて鏤(ちりばめ)たる(大いなる酒杯を掠めたりき)。

 彼[]は眠りて盗賊の業にかかりしども、後そを匿すことなかりき。

 かの人々、戦士の国民は彼[]が怒りてあるにぞ心付きける。 

 (厨川文夫訳、2210-2220)
(講義レジュメより引用)

 

つまりどういうことかというと、

  高い山の下に

  宝物を抱え込んだ竜が眠っている

  そこへ、秘密の通路を使って

  宝のカップを盗み出したやつがいることに

  あとで竜が気づき

  怒った音を聴きつけて国民はおののいた。

 

以上の要素が組み込まれているわけですが、はい、もうお気づきですね。

『ホビットの冒険』12章、「なかにはいってたしかめる」。

このくだりそのものなんです。

(12章の引用は長いのでここでは省略。お手元の本をご確認ください)

 

「何だパクリか~」とか思った人。いないと思うけど、もしいたら、それは違う。

やはり古い時代の神話・伝説の古文調で「こんなことがあった。こうなってこうなってこうなった」などとあっさりした語り口であるところを、

トールキンは物語としてわくわくドキドキできるように仕立てているというのがミソらしいのです。ビルボがそーっと入っていって、竜にびっくりして、こっそりこっそり宝を探す・・・「でもここでスマウグ起きたらどうしよう!」っていうあのハラハラ感ですよ。

 

ついでに私自身の趣味で、こういった記号の一致(高い山=はなれ山、秘密の通路=ドワーフの抜け道、などなど)を挙げるなら、北欧神話に登場する英雄シグルス周辺の要素も面白いと思います。

 

・魔力を得て鳥の言葉がわかるようになり、シジュウカラの助言で悪役を倒す

⇔バルドがスマウグを射る時のツグミの助言(『ホビットの冒険』)

 

・地面の溝に潜み、その上を竜が通りかかったところを、弱点である腹を刺して殺す

⇔トゥーリンが始祖竜グラウルングを殺すとき、渓谷に身を隠す。(『シルマリルの物語』)

 

などなど。

こういう「あ、これってちょっと似てるかも!」というのを色んな文献から探すだけでも楽しいものです。

 

 

「中編」で触れた内容にも共通することですが、トールキンは古英語叙事詩に描かれた世界や種族というものに、独自の意味付けや脚色を加えることで自分の創作に“落とし込み”ました。

エルフのイメージを“復元した”と説明したのは伊藤先生の言葉ですが、ここでもやはり“復元”という表現がしっくりきます。

 

曰く、トールキンは、自らの研究分野であったところの古英詩、中世文学に謳われた物語世界というものをとても愛していた。(ちなみに近世、近代の英文学はそうでもなかったとか何とか) 

その自分が好きで好きでたまらない世界というものを、近代にも通ずる児童文学(ファンタジー文学)の形をとって復元、再提供した。

もっというならば子供から大人まで楽しめる形で、我々に紹介してくれた。

 

こうとらえると、トールキンの『ホビット』や『指輪物語』の向こうに、さらに奥深く広大な“古英語”というフィールドを見ることができるのだと。

 

そして、少しでも「面白そうだな」と感じたならば、それは既に教授の術中にはまっているし、

学問の面白さというものの入口に立っているんだよ!

 

 

・・・という感じで講義を締めくくられていました。

(講義の主旨が「新入生歓迎」ですから、これから大学で学ぶことに少しでも楽しさを見出してほしいという締めくくりだったと思います。実際楽しいしね!)

 

 

以下は完全に私個人の感想を含めての見解になります。

中世物語、古英語叙事詩を自分流の物語に落とし込んで紹介したトールキン。

そしてそのトールキンに影響を受けた作品も、やはりそれぞれのやり方で、「トールキン的な」ファンタジーというものを生みだし、広げてきてこそ今日に至っています。

 

全てがトールキンを源流にすると言っては各ファンの反感を買うと思いますが、

テーブルトークRPGの代表格の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』だって、

日本産ファンタジーの金字塔といわれる『ロードス島戦記』だって、

その「好きなものを僕の私の手法で提供するぜ!どう?面白いでしょ?」というリレーの中で生まれてきたんだと思うのです。

 

それは勿論最近公開されたPJ版の「ホビット~竜に奪われた王国~」も同じ。

とりわけ第2部に関してはかなり原作からの改変や追加の要素が多く、

ファンの間でも驚きや戸惑いの声があがっていたと思います。

けれど、今回講義での「分かりやすい形で紹介した」という伊藤先生の解釈をお借りするならば、

PJや製作陣の意図はこんな感じかなと。

 

「トールキンの原作は面白い。けれど、このままじゃ『なんか古典ファンタジーとか児童文学で古臭くて私にはついていけないなあ』なんて人もいるだろう。

そんなの勿体ない。映画はアクションもいれるしハラハラドキドキの展開にするよ!

でも原作も面白いから、これをとっかかりにできたら、どうぞようこそトールキンの世界へ!」

 

そう、ちょうどトールキンがあの淡々とした竜の描写を、あんなにも心躍る“12章 なかにはいってたしかめる”にしたように。

 

私自身、映画『ロード・オブ・ザ・リング』が入口の人間です。

そんな自分のことも省みつつ、この「好きなもの復元・紹介リレー」に心から感謝をささげたいなあと思わされたのでした。

 

 

乱文になりましたが、レポートは以上です。

本当にトールキン愛あふれた素晴らしい講義であったこと

その内容の面白さが少しでも伝われば幸いです。



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