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「〈物語の世界〉古英語叙事詩とホビットの冒険」受講レポート(中編)

前編のつづき



Hobbit ~「英単語」としてのアプローチ~ ①

 

「ホビット」。

この生き物についてトールキンファンであれば誰でもよく知っていることと思います。

人間の半分ほどの背丈で、明るく陽気、もてなし好きで、食べることと飲むことと笑うことが大好き、したがって食事は1日に6回、足は硬い皮膚と毛で覆われているのでめったに靴を履かない、素朴な暮らしと平穏を愛する「小さき人」。

 

オックスフォードの辞書にまで「トールキンが創造した架空の種族」として”Hobbit”という単語の記載があるほど。

この単語はトールキンの造語とされており、その語源などは不明なのですが、(例えば穴を掘って生活していることなどや臆病な性質から”Rabbit(ウサギ)が語源なんて説もある)

ちょっと待って。

 

実は、トールキンより以前に”Hobbit”という単語を使った書物があるですって?

 

ここで参照するのがThe Denham Tract :A Collection of Folkloreという文献。

これは19世紀につくられた小冊子で、さまざまな伝承伝説の類や妖精や幽霊といったものを紹介する読み物だそうです。その一説が以下の通り。

 

 When the whole earth was overrun with ghosts, boggles, bloody-bones, spirits, …(中略)… redmen, portunes, grants, hobbits, hobgoblins, brown-men ... and apparitions of every shape, make, form, fasion,  and description, that there was not a village in England that had not its own peculiar ghost.

 

どういうことかというと、

「幽霊とか魔女とか妖精とかとにかくその他もろもろ色んな魑魅魍魎の類が跳梁跋扈していた頃には、イングランドのどの村にも固有の幽霊や伝承があったんだよ」

という内容。(ザックリ訳ですすみません)

その「その他もろもろ色んな魑魅魍魎」として羅列されてる例の一つに、ほら、ありますね?

“Hobbit”

 

ここからわかるのは、トールキン以前――少なくともデナムの時代のHobbitというのは、ゴブリンや魔女や幽霊の類としていっしょくたにされるような存在だったということです。

ただの妖怪妖の類としてしか紹介されてなかったHobbitという単語に、先述した「陽気な小さい人」というイメージを付与し、新しいファンタジー生物として“創造しなおした”ともいうべきでしょうか。

 

ファンタジー生物とはいえホビットはどこか近代のイギリス人を彷彿とさせる種族です。

後の話題にも繋がることですが、ドワーフやエルフ、オークにドラゴンといったさらにファンタジーファンタジーした生き物が出てくる中つ国への導入として、読み手である現代人と、恐ろしく不思議に満ちた中世文学のような中つ国の住人をつなぐ役割として、ホビットが主人公に選ばれたのではないかな?とすら思えてきますね。

 

 

Dwarf, Elf ~「英単語」としてのアプローチ②~

 

さて、中つ国の住人は何もホビットだけじゃない。

トーリン=オーケンシールドたちドワーフや、裂け谷や闇の森のエルフたちを忘れてくれるな!

・・・ということで。

さきほど「単語に与えられていた従来のイメージに、あたらしい種族性を付与する」と述べたトールキンの創作活動は、Dwarf,Elfに関しても言えるのです。

 

この二つの種族は、それこそ古英語叙事詩、エッダ、サガなどなどで一番古い時代から存在を信じられてきたという点で、そんじょそこらの「人外生物一覧」とは一線を画すらしいです。

 

ここで再びオックスフォードディクショナリー参照。

Dwarf(複数形Dwarfs)・・・地域によって「ドワーフ」「ドウェルシュ」「ドウェルグ」などなど。だいたい地中に住む、工芸の技に優れた小人、というイメージは中つ国のそれとさほど変わらないように思えます。

だけど注目。そう、複数形。

 

「あれ? トールキン作品だと”Dwarves”じゃないの?」

 

実は本講義で一番面白く感じたのがここなのですが、トールキンは従来の英語にはDwarfsという綴りしかないのを知っていて、あえてDwarvesという表記を使っている。

何故か?

それはトールキンが創造した中つ国において、「トーリン=オーケンシールドとその一族が属する古い種族について述べるときのみ、Dwarvesを使う」と注釈にあるんです。

 

一般にドワーフというとちょうど白雪姫の「7人の小人」のような大衆に広く普及したイメージというものがあります。それはディズニー映画に限らず、ほかにも「ドワーフって、まあこんな感じでしょ?」というイメージはずっとあったのでしょう。

 

でも違うんだと。

これから語るのはアルダの歴史においてヴァラールのアウレ様が創造し(しかも「勝手につくってんじゃねえよ」と怒られ)無事中つ国に目覚めた後もエルフとすったもんだあってサウロン様から7つの指輪を受け取っちゃったりの!この!固有の世界の「ドワーフ」についてなんだよ!!

7人の小人とは違うんだ!

 

・・・・という主張を、綴りを変えるという手法によって行っていると取れるのです。

(ちなみに講義ではここまでは言ってませんよ。念のため)

 

 

Elfについても同じことが言えます。

しばしばFairyと同義とされ、羽の生えた小妖精というか、「真夏の夜の夢」の妖精というか、下手すると「ハリー・ポッター」の屋敷しもべ妖精みたいなのもいっしょくたに「エルフ」と呼んでいたかつての時代。

 

そういう妖怪じみた「エルフ」のイメージを、美しく聡明で背丈も高い天使的な上位種族のイメージとして創りなおしたのがトールキンだ、なんてのはよく言われています。

(そのあとD&Dがあって、日本ではロードス島戦記があって・・・という話をしたいのですが割愛!)

 

ですが伊藤先生が仰るには、“復元した”というのが正確なのではないかと。

 

Elfという単語の起源をたどると、北欧の物語に『スノッリのエッダ』というものがあります。

それによると、エルフ(elf)ないしはアルヴ(alv)という種族には二種類いると。

 

空には「アルフヘイム(エルフの故郷)」と呼ばれる土地がある。「光のエルフ」と呼ばれる人々がそこに住んでいる。しかし、「闇のエルフ」は地下に住み、外見は彼らと違っているが、中身はもっと違っている。光のエルフは太陽よりも明るいが、闇のエルフはピッチよりも黒い。

Wikipedia より引用)

 

 

『シルマリルの物語』を読んでいる人ならば、ピンとくる描写かもしれません。

二本の木の光を知る上古のエルフたち、ガラドリエル様のような綺麗で神々しい存在。

 

こういったイメージを、トールキンは北欧のエッダなどの古い文献から得たのでしょう。

 

講義では触れていないことですが、「単語」という切り口を補足するならば、トールキンはエルフに関して”elf”という使い古された言葉のほかに、”Eldar(エルダール、星の民)“という呼称も与えています。もちろん全ての中つ国のエルフがエルダールに含まれる訳では無いのですが、ここで言いたいのは、トールキンがとにかく言語面での特異性によって作品にオリジナリティを付加するという作業を忘れていないということ。

 

英語が苦手でも一生懸命原書をたどって読みたくなるようなお話ですね。




(収まりきらなかったので後篇に続く)


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